CGシリコン液晶と IGZO液晶の違い
昔からシャープが得意とする「CGシリコン (CG Silicon) 液晶」そして最近は一般ニュースにも頻繁に出てくる「IGZO液晶」
どちらも「高精細」「低消費電力」を謳う液晶で、この2つがどう違うのか。
すらすら答えられる人はそう多くないように思います。
シャープも売れっ子2人を較べたがりませんので、なかなかわかりにくいのです。
そこでちょっと調べてみました。
シャープの携帯ページを見ると、2種類が混在していることがわかります。
出典: SH DASH:シャープ
シャープがIGZOの優秀さをPRしまくってますので「全部 IGZOでいいじゃん」と思ってしまうのですが、実際はIGZOとCGシリコンが入り交じって搭載されています。
これはどういうことでしょうか。
液晶は2種類に分かれる
私たちPCユーザーは TN、IPS、VAという種類分けをよく耳にしますが、それとは別に アモルファスシリコン液晶、ポリシリコン液晶という分け方があります。
□ アモルファスシリコン
製造プロセスが比較的シンプル、大型ガラスラインにも適応可、コスト安。高精細化は苦手ですがテレビ程度の解像度なら全く問題ないので、テレビ用としてよく使われています。
□ ポリシリコン
アモルファスシリコンを一旦溶かして結晶化します。製造行程が増え、大型ガラスラインには適応難。コスト高ですが、高精細化は十八番。よって小型ガジェット向けによく使われています。よく耳にする低温ポリシリコンもここに属します。
そしてこれらを進化させたものがIGZO、CGシリコンとなります。
□ IGZO(アモルファスIGZO)
分類するならアモルファスシリコンに近い、化合物半導体。アモルファスシリコンの低コスト性、アモルファス以上ポリシリコン未満の性能(電子移動度)、そしてポリシリコンを大きく上回るオフ性能を持つのが特徴です。
□ CGシリコン
シャープ流の “ポリシリコン・改” 。結晶化の過程で金属触媒を使い、結晶化をコントロール。結晶の粒を揃えることで高性能化しています。混ぜものをするので製造プロセスは一手間、二手間かかり、コスト・難度ともに高くなっています。
□ S-CGシリコン
CGシリコンの改良版。透過率のアップ、メモリ内蔵によるCPUのアイドル化によって消費電力削減が図られている。参考図
図にするとこんな感じでしょうか。
出典: シャープ辞典 / AUO / HiVi / Sharp Global
CGシリコン液晶の長所
シャープ絶賛の IGZOですが、高精細化においては CGシリコンに依然として分があります。
CGシリコンの場合、アモルファスに比べて約100倍程度電子が流れやすく、その性能はIGZOをさらに上回る。また高精細化もIGZOに比べ行いやすく、シャープでは「300ppi以上はCGシリコン、それ以下はIGZOという使い分けを考えている」という。
→ 「IGZO」液晶パネルを世界初の実用化 - 中小型を亀山第2工場で生産 - Phile-web
そのため高精細さが優先されるモデルではCGシリコンが採用されています。
IGZOも高精細化を進めるべく、結晶構造を持つ“CAAC-IGZO”を開発。CAAC-IGZOであれば 500ppi以上の高精細化も可能。既に498ppiの試作品も公開され「現行のIGZO液晶の製造は2012年度中には新IGZOに移行していく」というシャープ副社長のコメントも出ています。
→ AV Watch / ITmedia
IGZO液晶の長所
IGZOのメリットはオフ性能の高さを活かした待機電力の低さです。
「S-CG Silicon」まではディスプレイに画像を表示する際に1秒あたり60回の画面更新が必要だったが、「IGZO」では静止画に限り、1秒に1回で表示できるようになった。
→ AQUOS PHONE ZETA SH-02E スペック | アプリオ
出典: NTT DOCOMOラインアップ :SH DASH
※ 図はアモルファスシリコンとの比較ですが、S-CG Siliconと比較しても優秀(参考)
そして2つめのメリットは既存の大型マザーガラスラインを流用できる生産コストの低さ。CGシリコンには適さない第8世代以上の大型ラインでもIGZOは作ることができます。
IGZOはまた、これまでのアモルファスの生産設備を、小規模な改修を行うことで生産できることも特徴。亀山第2工場の大型マザーガラスを活用することで高効率な生産が行え、コスト競争力を上げることができるという。
→ Phile-web
S-CGシリコン vs IGZO
シャープの虎の子であるS-CGシリコンとIGZO。
シャープはこの2つを滅多に比較しません。
アンニュアルレポートでも比較は a-Siと
出典: www.sharp.co.jp/corporate/ir/library/annual/pdf/2011/annual_2011.pdf
で、その珍しい機会がドコモの2012年冬モデル発表会でありました。
IGZO、S-CG Silicon、CG Siliconを並べての消費電力デモです。
→ 週刊アスキー / ITmedia Mobile / GIGAZINE / AppComing
タイプ | 液晶消費電力 | バックライト消費電力 |
IGZO | ○ | ○ |
S-CGS | × | ○ |
CGS | × | × |
S-CGSはCGSより透過率が上がっているので、バックライト消費電力は優秀。
IGZO比較ではバックライトは同等ですが、液晶自体の消費電力で負けています。
オフ性能の差が如実に出ています。
ITmediaが引き出したこの説明員のコメントも興味深いですね。
「SH-02Eのトランジスタの大きさは『(SCG搭載の)SH-09DやSH-10Dと変わらない』」
トランジスタが小さいほど開口率が上がり、バックライト消費電力を抑えることができます。
こんなパネルも冬モデル発表会では展示されていました。
以上をまとめると、トランジスタサイズとしてはおおよそこんな感じか?
長いスパンでみれば、CGシリコンからIGZOへ移行
CAAC-IGZOが実用化すれば高解像度化にも目処がつき、大型マザーガラスで高精細なスマホディスプレイを低コスト生産できるようになるとシャープは目論でいます。それまではRetinaクラスの解像度ではS-CG Silicon、それ以下の解像度は IGZOと分担することになります。
また、IGZO液晶とCGシリコン液晶との住み分けについては、「顧客次第。CGシリコンにも良さがある。ただ、今後のIGZOに軸が移っていくことは間違いない」とした。
→ AVwatch: シャープ、IGZO液晶新技術「CAAC」。498ppiの6.1型など
水嶋氏「クライアントとの話し合いで決まっていくことではあるが、現行のIGZO液晶の製造は2012年度中には新IGZOに移行していく」
→ ITmedia Mobile
まとめ
ちらほらCGシリコンの後継・上位技術という扱いで IGZOが語られることがありますが、言ってみれば流派が違うので単純な後継とは言いにくいところです。当面、併存しつつ、IGZOのさらなる改良が成功すれば、晴れてCGシリコンとの交代が進みそうです。
“IGZO” 自体はシャープの商標でもなく、製造工程の特許はSamsungも取得しています。Samsungは展示会などにIGZOパネルを出展していますが、いまのところ製品化の話は聞こえてきません。
→ 特許のライセンス契約をサムスン電子と締結 - 東京工業大学
→ JSTとシャープが酸化物半導体に関するライセンス契約を締結
→ 日本発の最先端材料、先に韓国企業が使うジレンマ:日本経済新聞
余談、Appleでの採用はあるか?
AppleによるIGZO採用は何度となく噂にあがりましたが、実現していません。シャープは iPad 3 、iPhone 5 でパネル生産の立ち上げに失敗。Appleに警戒感をもたれており、iPad miniでも外されたと言われています。
Appleのポリシーでもあるマルチソースを覆させるだけの性能とプライス、そして安定供給できるのかという問題が横たわっています。鴻海傘下のCMIや、LGにライセンスするという手もあるでしょうが、諸刃の剣なのは言うまでもありません。ちょっと手詰まりですね。
亀山第2はもともと、自社ブランド「アクオス」大型テレビのために設計された工場だ。00年代半ばは30インチ前後のパネルを量産し、“世界の亀山”の名をほしいままにした。
ただ、液晶テレビの単価下落や円高で、競争力が急速に低下。スマートフォンやタブレット端末など中小型液晶用のラインにすることで再生を誓った。新アイパッドは大切な試金石だったが、「大型のガラス基板を細かく切断する過程で問題が発生した。パネルの薄型化など新たな工程が増えたことで、歩留りも悪化した」(アナリスト)。パネルが新技術のIGZOだったことも、もたつきを助長したとみられる。
結果、シャープが新アイパッド向けのフル操業にかかる前に、アップルは新アイパッドの減産に入った。シャープに加えサムスン向けの発注を停止し、足もとではLGがわずかに生産するのみだ。
新アイパッドの失策でアップルの機嫌を損ねたツケは大きい。当初見込んでいたパソコン「マックプロ」「マックブックエア」向けパネルの受注を、シャープは相次いで逃した。「IGZOの量産遅れをアップルが問題視したためではないか」(関係者)。
→ 東洋経済オンライン
当面、ウルトラブック向けで需要を作るようですが、実績を積み上げ、iPad・iPhone向けにも納入して欲しいものです。
関連
→ シャープ、電子回路をガラス板上に形成する「CGシリコン技術」を公開
→ いま改めて理解しておきたい、「Retina」と「IGZO」の関係
→ 株式会社ステラ・コーポレーション
→ 液晶パネルができるまで(TFT編)
→ CGシリコン関連特許 / IGZO関連特許
IGZO採用モデル
・ 1280 x 800 7インチ
・ 1280 x 720 4.9インチ
2012年04月13日 IGZO量産開始発表
→ AV Watch レポート
2012年06月08 CAAC-IGZO発表会
→ AV Watch レポート
→ ASCII 大河原克行 レポート
→ 半導体エネルギー研究所の資料
2012年10月 CEATEC
→ AV Watch 西川善司 レポート
シャープ公式
→ IGZO総合 / シャープ広報室ブログ