ヒューレットパッカード EliteBook 8570W

評価
GPUQuadro K2000M
CPUCore i (22nm, Ivy Bridge)
DRAM32 GB
OSWin10 x64
投稿者n2068dd
2016-07-30 03:07:47
■使用用途
天体静止画像・動画像の変換処理、デジタルカメラのrawデータの画像処理・編集、DAW、業務用三次元CGソフトの入力・簡易レンダリング

■背景
勤めている会社で、1995年あたりからCGワークステーションを導入したが、その際評価・検討したのが、Compaq、DEC、HP、DELLだった。当時世界初の24inchフルHDのソニーCRTを24ビット色彩深度でドライブできるOpen GLグラフッィクカードの動作認証確認済だったのは、この4社しかなかったためだ。ダイナミックピクチャー社のグラフィックボードだけで30万円もしたが、当時の社長に「必要だ」と言って決済をもらった。パソコン本体もデュアルCPU・デュアルバスラインで1台260万円だった。それでも、当時TVニュース用に作成した、3分間のCG動画のレンダリングに3週間の計算時間がかかった。その後、DECは64ビットCPUで高速だったが、Compaqに身売りし、そのCompaqはHPに身売りし、今はまともなワークステーションはDELLとHPの2社しかなくなってしまった(日本のメーカーのものは、大昔から自社開発ではなくインテルのOEMなのだが、ローカルルールのパッチを充てるので相性問題がついてまわり、私は使わないことにした)。そのHPもパソコン部門は資本を分離してしまったが、ワークステーションの何たるかを熟知しているHPにはこれからも途切れないように頑張ってもらいたいものだ。
 そのHPがしばらく前からモバイル・ワークステーションとして販売していたのが、EliteBook8570Wということになるらしい。「らしい」というのは、モバイルでCGというのは考えてもいなかったので、興味がなかったため気にも留めていなかったためだ。どうせ100万ポリゴン程度のデータでも、プレビューが気絶してしまい、使い物にならないだろうと。会社のワークステーションでも、当時はワッドコアのデュアルXEONでもぎりぎりだった。特にまじめにテクスチャマッピングをすると。
 何年か前、個人的にウィンドウズ7のOSライセンス取得のために中古のEliteBook8560Pを購入した。単品のOSより安いのだ。それをクワッドコアi7に換装し、SSDを入れたらけっこうサラサラ動くので、簡単な作業なら使えるかも?と分った。それなら、もう少しまともなGPU搭載のEliteBook8570WならCGにも使えるかもしれないと、やはり中古で追加購入することにした。m-SATAスロットが一つ、光ドライブもHDDドライブに変更できるのでRAID-1も組める。(ソフトがクラッシュすることが多いので使わないけど)
■演算速度
 デスクトップワークステーションの代わりにならないのは仕方ないとしても、案外使い物になる程度の速度ではないかと思う。入力モデル次第で計算時間は変わるが許容範囲だと思う。20年前のワークステーションより圧倒的に高速で、そこに感動するのは単に私が古い人間のせいか? 近年の天体画像処理ソフトには、マルチコア、32G以上のメモリー、ディスクリートGPU、SSDが推奨構成となっているものがあるが、実際使ってみると、なるほどこれくらいの構成でないと計算時間に1時間程度かかってしまい、実用にならない。ただ、一番スピードアップに有効なのは、SSDのアクセススピードだった。天体画像だと100ファイル程度のフルHDのRAWデータを合成したり加工したりするので計算の大半がデータの展開に使用される。もはやこれからはSSDの時代なのだろうと思う。会社や自宅のワークステーションはSCSIの15000回転HDDを4台使いLSI-logicのRAID-5としているが、それに匹敵するアクセススピードが簡単にノートパソコンで得られるには新鮮な驚きを感じた。

■表示装置
 時代は4Kになりつつあり、すでに手持ちのアンドロイドスマホでさえ普通にフルHDの時代なのだ。ノートパソコン用ディスプレイはなんでこんなに遅れているのだろう? といつも思う。色彩再現などもスマホの周回遅れという印象が強い。「シビアなキャリブレーションや高階調の印刷原稿でなければ、まあまあごまかしが効く」というレベルに留まっている。HPの海外で販売していたものは、カラーマネージメントに対応したドリームカラーと称するディスプレイが使えるそうだが、こちらにもそれが欲しかった。GPUのクワドロK2000Mは、安定しいてバグも少ない。

■静粛性・筐体
 ここは、デスクトップワークステーションに圧倒的に差をつけていると思う。ワークステーションのファンの音はオフィスであっても耳障りで、疲労感を増幅させる要素になっている。自宅でいじっているときなどは本当に「静かだなあ」と実感する。レンダリングが始まるとファンの音はうるさくなるが、それでも許容範囲だ。
 下位の機種と同じく、マザーボードを固定しているメインフレームは、プラスチックなので少しがっかりするが、剛性はなかなか高い。デザイン的に疑問なのが、ディスプレイパネル背面のロゴの表示だ。なんでここが光るのだろう? 意味が全く理解できない。キーボードの表面のテクスチャーが滑りやすく少しイライラするが、慣れたらこんなものだろうと思うようになった。Compaqも含めてHPのキーボードは伝統的に質感が悪い。東芝の初期のダイナブックのキーボードは素晴らしく良かったけど、パソコンの実性能は本当に低かったので上手くいかないものだ。

■メンテナンス・アフターサービス
 Compaqの時代からアフターサービスは非常に良い。今でもHPにそっくりそれが引き継がれている。20年前のマザーボードでも、今でもきちんと入手できてびっくりする。国産のマシンは、5年も過ぎてしまうと、全くパーツが入手できなくなってしまうのとは対照的だ。アメリカ本国の「パーツサーファー」サイトから世界中の在庫検索ができ、部品が管理されている。IBMもこれに近かったが最近は合理化してしまった。メーカーへの問い合わせに対しても親切に対応してくれ、「古い機種なのでもうメンテナンスは一切できません」と門前払いする国産のマシンは使う気がしなかったし、それが廃れた原因なのだろうと思う。

■動作認証

世界中のCGソフト、グラフィックソフトは、HPかDELLのマシーンで動くことを前提に製作されているので、安心して使うことができる。「ワークステーション」の名称はここに由来するが、ピークスピードが速いということではなく「安定して落ちない」・「バグにより表示できない」という部分か一番重視される。ピークスピードが10パーセント速くても、バグがあってはなんの意味もない。

■総評

こんな小さなマシンなのに、きちんとワークステーションとして成り立っているのは高く評価できる。デフォルトではRS-232C以外のレガシーインターフェースにも見捨てることなく対応しており、メモリーの容量・nSATAドライブの搭載、ディスクリートGPUなどの基本機能をきちんと押さえた素晴らしいマシーンだ。