LGが有機ELテレビでSamsungより先行した理由を考える
LGがついに55インチ 有機ELテレビの予約販売を開始。納品は2月初旬以降。2013年第1・四半期中に米・欧・アジアでも発売する。 価格は55インチ型が1100万ウォン(1万0300ドル)と、通常の液晶テレビの約5倍。
→ 韓国LG電子、有機ELテレビの予約販売開始 | Reuters
お値段は 1100万ウォン、日本円で約90万円です。
一方、Samsungはまだ予約に踏み切れてません。
当初は2012年中の発売予定だった
両社とも当初は “2012年中に発売予定” だったので、ずれこんでいます。
今年1月の「International CES 2012」では、韓国のサムスン、LGエレクトロニクスの2社が年内に有機ELテレビを発売すると予告していた。
→ 本田雅一のTV Style:IFAに見る大画面テレビのトレンド ~大型有機ELテレビは年内に登場するか?
なぜに有機ELなのか?
そもそもですが、なぜ有機ELが注目されるのか。
液晶より構造がシンプルでメリット多数!というのが有機ELの特徴です。
画素自体が光るため、液晶・バックライトが不要。これによるメリットが色々とあります。
構造的に薄くなるのはわかりやすい
出典: Pro Video Coalition
EE Times Japanの比較表では有機ELの圧勝です(異論もあるかと思いますが)
比較項目 | 液晶ディスプレイ | 有機ELディスプレイ |
輝度/コントラスト | △ | ○ |
消費電力 | △ | ◎ |
薄さ | △ | ○ |
応答速度 | △ | ◎ |
これだけ見ると有機ELへの移行は必然なのですが、日系メーカーがことごとく大型有機ELテレビを市販化できずにいる理由もまた歴然とあります。
製造が非常に難しい
「画素が発光」と書くのは簡単ですが、大画面で作るのが非常に難しいとされています。
有機EL材料をペタペタ塗って完成!であればいいですが、インクジェットプリンタのような3色塗り分けはいまだ実用化されておらず、現在スマホに搭載されているような有機ELパネルはギャバンよろしく “蒸着” して作られています。
蒸着はやかんの湯気が結露するのに似てますが、材料をヒーターで加熱・蒸発させ、基板の狙ったところ、青の場所には青の材料、赤の画素エリアには赤の材料を付着させます(他はその都度マスクして隠す)。厚さも極力均一に仕上げます。
3色同時には出来ませんので、蒸着は1色ずつ行います。
出典: キヤノントッキ株式会社
↑はキヤノントッキの製造ライン。これは730×920mmのガラス基板が対応限界で、仮にこれでTVを作るなら32インチ程度が限界です。55インチともなれば全てが巨大化します。
マスクするにしても熱膨張や自重による湾曲など、小型パネルでは大きな問題にならなかったことが致命的になってきます。均一の厚みで蒸着し分けるのは至難の業とされています。
出典: 旭硝子
これら真空蒸着で大型パネルを作る難しさを回避するため、マスクを使わないレーザー転写法や印刷法も開発されていますが、どの製法も実用化には課題を抱えている状態です。
→ 有機ELディスプレイのフルカラー化技術の比較 - Tech-On!
Samsung、有機ELの歩留まり1%?
Samsungは55インチを蒸着法で製造しているとのこと。
低分子型の発光素子を、マスク蒸着技術を用いて形成した。55型の有機ELパネルでは「SMS (small mask scanning)」と呼ぶ、小型のマスクを移動しながら蒸着していく技術の導入が噂されるが、「詳細については明かせない」(同社の説明員)とした。
→ Samsung Mobile Displayが55型有機ELを出展、パネル仕様を明らかに - Tech-On!
真偽は不明ですが、伝えられるところによれば、Samsungの歩留まりはわずか1~2%という説もあります。100台作って製品にできるのはわずか1台 or 2台。
3일 삼성전자와 LG전자에 따르면 두 회사가 연내 출시를 목표로 시험 생산 중인 OLED TV의 불량률은 98∼99%에 이르는 것으로 알려졌다. 100대의 OLED TV를 만들면 시장에 완성품으로 내놓을 수 있는 제품이 1대 아니면 2대 수준에 그친다는 뜻이다.
(Google翻訳)3日、サムスン電子とLG電子によると、両社は年内の発売を目指し試験生産されているOLED TVの不良率は98~99%にのぼることが分かった。 100台のOLED TVを作成すると、市場に完成品で出すことができる製品が1台か2台水準にとどまったという意味だ。
시장조사기관인 유비산업리서치는 “두 회사의 OLED 패널 생산량은 월 4만 대 규모이지만 현재의 수율이라면 연말까지 월 2000대 생산도 어려운 수준”이라고 분석했다.
(Google翻訳)市場調査機関である劉備産業リサーチは "両社のOLEDパネルの生産量は月4万台規模だが、現在の利回りであれば年末までに月2000台の生産も困難なレベル"と分析した
→ Google 翻訳
通常はこれで商品化など論外の歩留まりです。
ゲーム機の赤字どころの話ではありません。
有機ELの第一人者、城戸教授にぶった切られるSamsung。
まあ、想定内ですね。
サムスンに関しては、大型有機ELパネルの量産技術さえ整ってません。
LGにしてもIGZOのTFT基板技術が量産レベルにあるのかどうか、ちょっぴり疑わしいところ。
有機ELテレビは、有機ELの成膜だけじゃなく、TFT基板が極めて重要で、IGZOの歩留まりが低くて、まだ十分な台数が確保できてないんでしょう。
サムスンと違い、LGのホームページには型番まで明記してあって、本気なのにね。
→ 大型有機ELテレビ: 大学教授のぶっちゃけ話
寿命の問題
巧く蒸着し、製品化できたとして、次に待ち構えるのが寿命の問題です。
有機材料は非常に劣化しやすい特徴があります。
しかも各色均一に劣化すればまだいいですが、青だけ桁違いに寿命が短いなど、その劣化スピードはバラバラ。このコントロールをどうするのか。
寿命(輝度1000cd/m2が半減する時間)が1万4000時間、電圧4.8Vの品種などを開発した。これまでの材料は、色度yが0.14~0.13だった。ただし、寿命が赤色、緑色に比べてケタ違いに劣っており、青色発光材料の長寿命化が実用化への課題となる。
→ 住友化学、色度や寿命を改善した高分子有機EL材料 - Tech-On!
この問題は先に発売されたソニーの有機ELテレビ「XEL-1」で指摘されており、案の定、青色の劣化が著しいこともわかっています。
「寿命」とは輝度が半減するまでの時間を指し、XEL-1のパネル寿命は30000時間、すなわち毎日8時間使用しても輝度が半減するのは10年後であるとされてきました。一方DisplaySearchの実測では、1000時間後に青の輝度が12%、赤が7%、緑が8%低下しており、一般的な動画の表示で寿命を迎えるのはおよそ1万7000時間後(公称の約56%)であると予測されています。
→ ソニーの有機ELテレビXEL-1、寿命は公称の約半分という予測 - Engadget Japanese
輝度が落ちていく青色をどう補正するのか。
なにもせず放置となれば、90万円のテレビなのに年々色ずれが酷くなるという悲しいことになります。これもRGB方式の有機ELに付いて回るハードルです。
なぜにLGが先行したのか?
予約販売でSamsungより一歩先行したLG。
その理由はLGが潔く “諦めた” 点にあります。
赤・緑・青を自発光させるのが理想的な有機ELだとすれば、LGはそれを放棄。
白色一色を選択。これで様々な難題を回避しています。
白一色であれば、赤の蒸着時は緑と青をマスクして…という手間が不要になり、有機層をベタで成膜することができます。色は液晶パネルと同じくカラーフィルターで生成します。
色ごとに異なる劣化スピードもこの方式であれば問題ありません。
ただこれは見ての通り、有機ELの特徴であった “シンプルな構造” を一部諦めています。既存の液晶パネルのノウハウを流用した折衷案とでもいうべき構造です。
妥協の代償は
・ 色
・ 光の利用効率(消費電力)
・ 厚み
などなど。有機ELのアドバンテージのいくつかは捨てることになります。
特に発色はカラーフィルターによるため、液晶に近い色域になってきます。
高分子材料の可能性
西川善司氏はさらにLGの有機ELパネルは恐らく高分子材料を使ったものではないかと推測。
高分子であれば、印刷法の可能性もあります。
LGの有機ELパネルは恐らく高分子材料だと思われるが、現時点では非公開とされている。ただし、生成する有機EL画素を白色限定したことで、R,G,Bの各色で発光できる有機材料を高精度に塗布し分ける工程を省略できること、そして成膜した有機材料膜に対してさらに電極を成膜する際にダメージ管理のハードルを下げられることなど、コストメリットは大きい。
→ 【西川善司の大画面☆マニア】第156回:CES特別編 55型有機EL対決 -AV Watch
※ 2013/01/09 追記
パナソニックがCES2013にて、印刷法による56型4Kディスプレイを発表。
勝負の行方はわからなくなってきました。
→ 蹴茶: パナソニック、世界初印刷法による有機EL4Kディスプレイを発表 [2013.1.9]
関連
→ 有機ELデバイスの低コスト化 - Tech-On!
→ 有機ELディスプレイ|レグザタブレット|REGZA:東芝
→ どうなる!? 日本の有機EL技術 ただの撤退ではない日本企業のしたたかな知財戦略を見る- MONOist
→ ソニーの国家プロジェクト: 大学教授のぶっちゃけ話
→ 韓国サムスン、蒸着による350ppi有機ELパネル開発成功 Super AMOLED HD Plus登場か | ガジェット速報
→ www.chugoku.meti.go.jp/research/h20fy/dejitarus/13.pdf
→ サムスン・LG、有機ELテレビ発売延期 :日本経済新聞
2013/01/09
Tech-Onの記事を2つ追加。塗布法→印刷法への言い換えなど製法情報を追加修正。