07
30
2013
電波弱者から強者へ、論法を変えたソフトバンク

電波弱者から強者へ、論法を変えたソフトバンク

UQに新しい周波数枠を割り当てられたことにソフトバンクが激怒している件について。電波行政の裏側が透けて見える面白い記事です。

最終的に開設計画を申請する際、(ソフトバンクの)宮川COOは最後まで10MHz幅で申請するか、20MHz幅で申請するか迷ったと話す。そこで最終的に総務省の担当者に相談したところ、「10MHz幅で出すって言いましたよね」との返答を受けたとする。
 宮川COOは、これは総務省がUQとWCPに対して、10MHz幅ずつ割り当てる方向に誘導しているサインだと感じたという。
 → 記者の眼 - UQが2.5GHz帯争奪戦を制した理由、そしてソフトバンクは何に怒っているのか:ITpro


行間を読んで決まる日本の電波行政。結果的にソフトバンクは落選し、孫社長は「いつまでこんな不透明な裁量行政を続けるのか」「天下りのせいだ」と激昂しています。

なら、電波オークションにすれば良いのですが、これまでオークションに反対してきたのは他ならぬソフトバンクです。

元副社長の松本徹三氏も何度も反対意見をBlogosやツィッターで語っています。
 → 電波オークション問題(松本徹三) - BLOGOS

「電波オークションを導入するのであれば、放送局もタクシー会社も、NTTドコモやKDDIも、すべての企業が今使っている周波数帯をいったん返上して、その上でオークションをすべきだ。オークションの思想には賛成だが、一部の周波数だけを対象に実行することには弊害がある」(ソフトバンク 代表取締役社長 孫正義氏)という強い反対意見もある。
 → 記者の眼 - 電波オークション、やれるのかやれないのか:ITpro


理由に挙げているのが「やるなら全部やれ」論です。
もっともな部分もありますが、無理な話です。

毎年数千億円の黒字がある携帯キャリアや、独占的なテレビ業界は乗りきるでしょうが、零細企業の集まりであるタクシー業界まで一緒くたにオークションというのは無理な話です。無理がわかってて言ってそうですが。


ここからはさらに邪推。



なぜ今になってプンプン怒っているのか

日経記者の方も「なぜ今?」と不思議そうに見ていますが、私は電波弱者から強者へと立場が変わったことがソフトバンク幹部を苛立たせているのだと思います。

総務省が ”あうんの呼吸” で電波行政を決めてきた理由の1つは “競争の維持” です。単純な優劣だけでなく、なるべく業界の競争を促進するよう周波数帯を配分する考えです。

これまでソフトバンクは電波弱者であり、プラチナバンドも持っていませんでした。なので「弱さ」を前面に押し出し、オークションではなく、あうん行政による弱者優先枠で周波数を割り当ててもらった方が都合が良かったのです。

関連
 → プラチナバンドの割当状況 不利な割当 - CNET Japan
 → 「900MHz帯が割り当てられなければ、ソフトバンクモバイルの利用者に対して不公平」


ところが状況はここに来て変わりました。
周波数の割り当て状況は以下のようになっています。

連結子会社を別にすれば、一見ソフトバンクが少なく見えますが…
各キャリアの周波数枠

連結するとこのように
各キャリアの周波数枠 連結版
出典: ソフトバンク株式会社 アンニュアルレポート 2013

イー・アクセスの買収などを経て、ソフトバンクはいまや電波強者。これまでの戦法は使えません。質的にもプラチナバンドを抱え「不利だ、不利だ」と言っているだけでは枠がもらえなくなってしまいました。ゆえに

孫社長
「今回のような不透明な審査が繰り返されるのであれば、周波数オークションの方がまだましだ」

と立場を一変させたわけです。
もはや弱者優先枠は必要なし、公平に殴り合おうぜ!というわけです。


関連
 → 蹴茶: ソフトバンク、イーアクセスを2000億円で買収 電波でKDDI抜く [2012.10.1]
 → スマホのセキュリティ対策は…(山本 一郎) - 個人 - Yahoo!ニュース
 → 孫正義が電波割当方針でブチ切れたとかいう件があらゆる面で… - No!SoftBank
 → 今さら電波行政は不公平という、孫正義氏は経営者の鑑(山田肇) - BLOGOS