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[FIT] 買取価格を切り下げる困難さ

蹴茶: 孫さんが触れたくない事実 2009年のFITを引用する理由 [2012.4.26]
での追記補足です。

負担を抑えるためドイツ政府が出した4月のFIT改訂案ですが、上院が差し止め、環境大臣が解任される騒動に発展しています。背景には力をつけた再エネ事業者のロビー活動があるようです。ロビー活動そのものが悪いわけではないのですが。



日本ではほとんど報道されていないので、英語のニュースを紹介。
 ・ [pv magazine] ドイツ上院が補助金調停委員会を招集
 ・ [pv magazine] ドイツの環境大臣が解任される

ドイツで活躍されている村上氏によれば、再エネ陣営のロビー活動が背景にあるようです。


この話題への反応はポジティブとネガティブ、双方あると思います。

 「結局、再エネも "ムラ" を形成するのか」
 「再エネは36万人もの雇用を生んでいる」

発電モジュールなどハードでは劣勢のドイツですが、施工業者などソフトウェア面で雇用を増やしています。一概に「産業振興に失敗した」と言えないのはこの辺の事情があるゆえです。

急速な市場縮小となればリストラの嵐が吹き荒れることは、スペインの事例からも明らかです。当然、ロビー活動が行われます。"原子力ムラ"で悪いイメージが付いたロビー活動ですが、本来は国民の代表である国会議員に訴えかけるのは当然の行為と言えます。

スペインでは急なFIT改定によって失業者を大量に生み出した
スペイン タリフ
出典: Presentation of the IEA PVPS Workshop held in Fukuoka Dec. 1st, 2011

雇用が増えること自体、誰も反対しないと思います。
問題は雇用にかかるコストです。効率の悪い雇用コストは国民の大きな負担となります。

FIT切り下げが差し止められ、委員会で再検討となったことで、ドイツのFIT負担圧縮は予定通りに進まないことになります。2013年以降のサーチャージが注目されます。

ドイツ FITサーチャージ 推移

増え続けるサーチャージにこんな議論もあるそうです。


一見良い話に思えますが、当然誰かがこの負担を背負うことになります。
税金投入となるのか、はたまた産業界に負わせるのか。
どちらにしろ苦渋の選択を迫られることになります。


■ イギリスでも

スペイン政府の後出しじゃんけんとも言える、遡及的FIT改定は既に紹介しましたが、
 → 蹴茶: [FIT] スペイン 太陽光発電バブルの崩壊 [2012.5.5]

イギリスでも急なFIT改定が裁判沙汰となり、政府が敗訴しています。
 → イギリスが太陽光発電の買取価格を引き下げたら業界から訴えられた | 沈思黙考


■ 切り下げの困難さ

導入量の政府予想が外れ、予定外のFIT改定に追い込まれるパターンはどの国も同じです。

これらの教訓を全く無視して上限なしの固定買取に突き進む日本は大丈夫なのでしょうか。
心配が杞憂に終われば良いのですが。


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