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2012.4.26 11:40

孫さんが触れたくない事実 2009年のFITを引用する理由

ソフトバンクの孫社長は太陽光発電の固定買取実現のため、マスコミ、民主党、それぞれを相手にプレゼンをしたのですが、ここで3つのトリックが使われています。

 4/20 民主党復興ビジョン会合 / 4/22 自由報道協会 / 4/25 民主党エネルギーPT

  1. 太陽電池暴落前の2009年の欧州価格を引用
  2. 屋根ソーラーとメガソーラーの混同
  3. コスト負担額の過小評価



話の大前提として
太陽光発電の買取価格

FIT 制度
出典: 買取価格・期間等 | なっとく!再生可能エネルギー

よく間違われるのですが、42円という価格は20年間変わりません
あとから下げても、新価格が適用されるのはその後の新規設備のみです。

ここがこの制度のメリットでもあり、恐いところでもあります。



1.太陽電池暴落前の2009年のデータを引用

孫社長は買取価格について、以下のように語っています。(UStream 46分)

「ヨーロッパの平均でも58円だということであります…2009年のデータでは」

ヨーロッパの平均でも58円
価格のソース

「これを1日でも早く、国会で正式に通してほしい」
FIT 孫正義 電気料金の適正化

ここが問題です。
買取価格は各国公表してますが、なぜか2009年の価格を引用。

(※ 実際は2009年というより “2008年の価格” と思われます

2009年以降、孫さんにとっては触れたくない出来事が起きています。

ソーラーモジュールの価格下落です。

ソーラーモジュールの大幅値下げ
出典: Module Pricing | Solarbuzz

それに伴い、欧州の買取価格は大幅カットされています(参考)。

ドイツ 屋根 13.5ct 14.4円 1000kw〜10MWまで 住宅や工場の屋根など
地上13.5ct14.4円1000kw〜10MWまでメガソーラーなど


ドイツFIT


またドイツでは10MW超のメガソーラーは対象外です。これは非常に重要です。
大規模なソーラーは「補助金に頼るな、自由競争せよ」ということになっています。

ドイツFIT 10MWover
出典: [PDF] 石油・ガスの生産実態 ドイツの太陽光・風力発電

スペイン 屋根 19.32ct 20円 2MWまで 新規買取凍結中
地上12.17ct13円10MWまで 新規買取凍結中


スペインFIT

イタリア 屋根 17.1ct 18.3円 5MW〜  7/1さらに改訂?
地上14.8ct15.8円5MW〜Conto Energia V


イタリアFIT

フランスも載ってますが、非常に複雑なので割愛。

私が引用したのは孫社長が引用したのと同じ経産省の資料ですが、最新の2012年資料です。「直近のデータ(20日発言)」とするならこの資料を使うべきでは。



2.屋根ソーラーとメガソーラーの混同

さらにずるいのが、屋根と非屋根の混同。

58円屋根ソーラー の買取価格です。

屋根型は系統への負荷が比較的小さく、設置主の省エネ意識を高める効果があります。
難点は高コスト。そのためメガソーラーより高い買取価格が付けられています。

一方、孫社長が手がけるのは地面据え置きのメガソーラー。これは低コストです。
ゆえに欧州でも買取価格は2008年時点で平均 36.4円 です(参照)

孫社長が何をやったかというと「欧州=58円」と屋根の買取価格を全面に出しつつ、メガソーラーはノータッチ。屋根の価格をメガソーラーへとミスリードしたことになります。

ソーラールーフトップ型(屋根型)
写真出典: Solar powered bungalow | Flickr /  雪国型メガソーラー発電所竣工式 | Flickr

屋根ソーラーは「コストダウンできるから」と欧州より安い42円を提示したのですが、メガソーラーは逆に高い40円(税込で42円)を提示。これはどう見ても変です。


たまに「日本は普及率が低いから42円でいい」という意見がありますが、42円の理由として孫社長が挙げているのは「造成費」です。量産効果の見込めるコストではありません。

仮に普及率の低さを理由にするにしても、ちゃんと実状を提示した上で「割増」を主張すべきです。

私自身は欧州より盛ることには賛成ですが、ただドイツの3倍がはたして妥当か。あとから価格引き下げは困難ですが(欧州では裁判沙汰になっている)、加算は可能です。まずは2倍程度(29円前後)で初めても良いと思うのです。

おまけ:系統分離の問題点

(追記)
「でも孫さんがFITの買取価格を決めるわけではないでしょ?」

それがそうでもないのです。委員会の議事録を見て頂くとわかりますが、価格に関してはソフトバンクや太陽光発電協会の意見を鵜呑み。議論以前の問題です。
 → 委員会、買取価格は売り手の提案をほぼ丸呑み





3.コスト負担額の過小評価

家庭の負担について

「一回だけ、一時的に8000円が8500円になります。」(Ustream 57分)
「そのあと量産効果が効いて安くなります」

FIT 負担

と述べています。ここも疑問を呈させてもらいます。
以下はドイツの太陽光発電業界の試算です。基本的に電気料金は右肩上がりです。

ドイツの家庭用電気料金
出典: BSW-Solar via 太陽光発電のコストダウンはどこまで可能か

買取価格は20年間“固定”ですので当たり前の話です。
20年後にならないとフェードアウトしていきません。

次に試算ではなくドイツの実績、一般家庭における補助金の負担額です。

ドイツ FITサーチャージ 推移
詳細: 蹴茶: [FIT] ドイツの負担額 サーチャージ費用 2003-2013 [2012.5.4]

2013年には月額15.8ユーロに達しています。
実に毎月1600円を負担しています。
 → 時事ドットコム:電気代高騰が総選挙争点に=脱原発のドイツ

はたして「500円を一時的に加算」で済むのでしょうか。

太陽光発電が将来的に安くなるのは間違いないですし、将来は有望です。
莫大なFIT負担さえ無ければ、です。

ドイツの事例を見ても、40〜42円(37〜39ユーロセント)という高額買い取りをキープしたまま、負担は “一時的に月500円” は無理があります。

1つ考えられるのは、先行組がFIT認可を済ませたのち、引き下げ黙認に転じることです。これなら主張はある程度通ります。先に書いたように、認定後は “固定” ですので、あとの価格引き下げは関係ありません。

ドイツの負担額
出典: [PDF] 欧州の固定買取制度について Page 9



太陽光発電は原発より安い

孫さんはこのようにも主張しています

「原発コストがどんどんあがって、去年クロスオーバーしてる」

原発と太陽光発電のコストが逆転
FIT 孫正義 原発より安くなる

原本PDF見つけました。緑点は実数だそうです。
原発と太陽光発電のコストが逆転

これによれば、現在の太陽光発電コストは最安で約 8 USセント/kwh(約6.5円)。

これを知った上で行動せよと強く主張されています。
少なくとも最新のコスト動向はよくご存じのようです。

 孫さん「知って行動せざるは罪である」 Ustream 36分

その通りだと思います。



「一方的な値上げはすべきではない」

「日本の電気料金は高すぎる」
「国民に一方的な値上げをしなくて済むようにすべき」

FIT 孫正義 電気料金の適正化
出典: [PDF] 民主党エネルギーPT 資料

もう一度、

「これを1日でも早く、国会で正式に通してほしい」
FIT 孫正義 電気料金の適正化

 ↓ ↓ ↓

電気料金サーチャージ発生

 ↓ ↓ ↓

一方的な電気料金の値上げ


何のギャグですか?


電力会社には競争が必要など賛同できるところもありますし、FITも価格次第ではありだと思いますが、価格設定でぶち壊しです。



オススメ資料

“劇薬”のFITを“良薬”に変えられるか?:日経ビジネスオンライン
 今回の価格決定のベースとなった、買取制度小委員会 委員長を務めた柏木氏のコラム。
 当初の理念からの乖離を指摘されています。

[PDF] 富士通総研 再生可能エネルギー拡大の課題 梶山恵司
 FIT決定後のレポートとして現状把握にもってこいです。


今回、孫社長が提示した価格のソース(2010年3月24日付)

再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム(第4回) 資料1 - P15に掲載

資料1 15ページ
クリックで拡大
 ドイツ、スペインは2009年のFIT価格
イタリア、フランスは2008年のFIT価格

EU平均はEREF Price Report 2009より抜粋。
P39の “EU 27 avarage” からの引用と思われます。
おおよそ 2008年 の各国価格から計算されています。


資料6 欧州の固定価格買取制度
 調達価格等算定委員会第1回で出された資料。2012年3月6日付け。



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 → 蹴茶: 孫社長より恐ろしい人達、本当に恐いのはこっち? [2012.4.26]
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 → 蹴茶: 大飯原発再稼働そっちのけ、FIT正式決定に喜ぶ孫社長 [2012.6.19]
 → 蹴茶: ドイツの一般家庭における消費電力量 [2012.11.17]

急増する負担を抑えるべく、ドイツ政府が出したFIT改訂案を上院が差し止め、環境大臣が解任される騒動も起きています。背景には力をつけた再エネ事業者のロビー活動があります。(詳細

 → 経産省:自然エネルギーのコストを全部電力消費者に転嫁して良い
 → 経産省:導入量の制限(cap制)は考えていない

最終更新 2013/04/14 FIT価格表を追加。