孫さんが触れたくない事実 2009年のFITを引用する理由
4/20 民主党復興ビジョン会合 / 4/22 自由報道協会 / 4/25 民主党エネルギーPT
- 太陽電池暴落前の2009年の欧州価格を引用
- 屋根ソーラーとメガソーラーの混同
- コスト負担額の過小評価
話の大前提として
太陽光発電の買取価格
出典: 買取価格・期間等 | なっとく!再生可能エネルギー
よく間違われるのですが、42円という価格は20年間変わりません。
あとから下げても、新価格適用はその後の新規設備のみです。
ここがこの制度のメリットでもあり、恐いところでもあります。
1.太陽電池暴落前の2009年のデータを引用
孫社長は買取価格について、以下のように語っています。(UStream 46分)
「ヨーロッパの平均でも58円だということであります…2009年のデータでは」
価格のソース
「これを1日でも早く、国会で正式に通してほしい」
つまり「欧州平均58円だけど、40円でいいから早く国会通して!」というわけです。
ここが問題です。
孫さんが引用したのは 2009年の価格なのです。
(※ 実際は2009年というより “2008年の価格” と思われます)
2009年以降、孫さんにとっては触れたくない出来事が起きています。
ソーラーモジュールの価格下落です。
出典: Module Pricing | Solarbuzz
それに伴い、欧州の買取価格は大幅カットされています(参考)。
ドイツ | 屋根 | 13.5ct | 14.4円 | 1000kw~10MWまで | 住宅や工場の屋根など |
地上 | 13.5ct | 14.4円 | 1000kw~10MWまで | メガソーラーなど |
さらにドイツでは10MW超のメガソーラーは買取対象外です。これは非常に重要です。もはや大規模ソーラーは「補助金に頼るな、自由競争せよ」となっているのです。
出典: [PDF] 石油・ガスの生産実態 ドイツの太陽光・風力発電
スペイン | 屋根 | 19.32ct | 20円 | 2MWまで | 新規買取凍結中 |
地上 | 12.17ct | 13円 | 10MWまで | 新規買取凍結中 |
イタリア | 屋根 | 17.1ct | 18.3円 | 5MW~ | 7/1さらに改訂? |
地上 | 14.8ct | 15.8円 | 5MW~ | Conto Energia V |
フランスも載ってますが、非常に複雑なので割愛。
これら資料は孫社長が引用したのと同じ経産省の資料です。「直近のデータ(20日発言)」と言うのならば、この2012年の資料を使うべきです。
2.屋根ソーラーとメガソーラーの混同
一番ずるい、悪質なのがこれです。屋根と非屋根の混同。
孫社長の言う「欧州58円」は誤りです。本当は36.4円です。
58円というのは屋根ソーラーのEU平均です。
出典: 経産省:(参考)諸外国における買取価格 P15
屋根型は系統負荷が比較的小さく、設置主の省エネ意識を高める効果があります。
難点は高コスト。そのためメガソーラーより高い買取価格が付けられています。
一方、孫社長が手がけるのは地面据え置きのメガソーラー。これは低コスト。ゆえに欧州でも 2008年時点で既に平均 36.4円 なのです。
孫社長は「欧州=58円」をアピールし「日本はそれより低くて言い」などと言ってますが、実際は孫社長の望む「40円(税込 42円)」は数年前の欧州より高いのです。
写真出典: Solar powered bungalow | Flickr / 雪国型メガソーラー発電所竣工式 | Flickr
たまに「日本は普及率が低いから42円でいい」という意見がありますが、42円の理由として孫社長が挙げているのは「造成費」です。量産効果の見込めるコストではありません。
仮に普及率の低さを理由にするにしても、このようなミスリードをせず、実状を提示した上で堂々と「割増」主張すべきです。
私も普及が加速する欧州より、買取価格を盛ってもいいと思ってはいますが、はたしてドイツの3倍が妥当かどうか。あとからの価格引き下げは非常に困難です(欧州では裁判沙汰に)が、加算は容易です。まずは2倍程度(29円前後)で初めるべきだと思うのです。
おまけ:系統分離の問題点
(追記)
「でも孫さんがFITの買取価格を決めるわけではないでしょ?」
それがそうでもないのです。委員会の議事録を見て頂くとわかりますが、価格に関してはソフトバンクや太陽光発電協会の意見を鵜呑み。議論以前の問題です。
→ 委員会、買取価格は売り手の提案をほぼ丸呑み
3.コスト負担額の過小評価
家庭の負担について
「一回だけ、一時的に8000円が8500円になります。」(Ustream 57分)
「そのあと量産効果が効いて安くなります」
と述べています。ここも疑問を呈させてもらいます。
以下はドイツの太陽光発電業界の資料です。基本的に電気料金は右肩上がりです。
出典: BSW-Solar via 太陽光発電のコストダウンはどこまで可能か
なぜか? それは20年間 買取価格が固定だからです。
20年後にならないとフェードアウトしていきません。
次に試算ではなくドイツの実績を紹介したいと思います。
以下は一般家庭における補助金の負担額です。
詳細: 蹴茶: [FIT] ドイツの負担額 サーチャージ費用 2003-2013 [2012.5.4]
2013年には月額15.8ユーロに達しています。
実に毎月1600円を負担しています。
→ 時事ドットコム:電気代高騰が総選挙争点に=脱原発のドイツ
はたして「500円を一時的」で済むのでしょうか。
太陽光発電が将来的に安くなるのは間違いないですし、将来は有望です。
莫大なFIT負担さえ無ければ、です。
ドイツの事例を見ても、40~42円(37~39ユーロセント)という高額買い取りのまま負担は “一時的に月500円” は無理があります。
1つ考えられるのは、先行組がFIT認可を済ませたのち、引き下げ黙認に転じることです。これなら孫社長の主張はある程度通ります。先に書いたように、価格は “固定” なので、あとの引き下げは先行組には関係ありません。
しかし、これをやってしまうと、資金力のあるところが補助金の美味しいところをごっそりもっていってしまい、後続の資金力のないNPOや個人は大きく減額された補助しか得られなくなってしまいます。補助金が大きく変動することは業界の雇用面からもいいことではありません。
出典: [PDF] 欧州の固定買取制度について Page 9
太陽光発電は原発より安い
孫さんはこのようにも主張しています
「原発コストがどんどんあがって、去年クロスオーバーしてる」
原発と太陽光発電のコストが逆転
原本PDF見つけました。緑点は実数だそうです。
これによれば、現在の太陽光発電コストは最安で約 8 USセント/kwh(約6.5円)。
これを知った上で行動せよと強く主張されています。
少なくとも最新のコスト動向はよくご存じのようです。
孫さん「知って行動せざるは罪である」 Ustream 36分
その通りだと思います。
「一方的な値上げはすべきではない」
「日本の電気料金は高すぎる」
「国民に一方的な値上げをしなくて済むようにすべき」
出典: [PDF] 民主党エネルギーPT 資料
もう一度、
「これを1日でも早く、国会で正式に通してほしい」
↓ ↓ ↓
電気料金サーチャージ発生
↓ ↓ ↓
一方的な電気料金の値上げ
何のギャグですか?
「電力会社に競争が必要」など賛同する面もありますし、FITも価格次第で賛成ですが、価格設定でぶち壊しです。
参考資料
・ “劇薬”のFITを“良薬”に変えられるか?:日経ビジネスオンライン
今回の価格決定のベースとなった、買取制度小委員会 委員長を務めた柏木氏のコラム。
当初の理念からの乖離を指摘されています。
・ [PDF] 富士通総研 再生可能エネルギー拡大の課題 梶山恵司
FIT決定後のレポートとして現状把握にもってこいです。
今回、孫社長が提示した価格のソース(2010年3月24日付)
・ 再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム(第4回) 資料1 - P15に掲載
クリックで拡大 | ドイツ、スペインは2009年のFIT価格 イタリア、フランスは2008年のFIT価格 EU平均はEREF Price Report 2009より抜粋。 P39の “EU 27 avarage” からの引用と思われます。 おおよそ 2008年 の各国価格から計算されています。 |
・ 資料6 欧州の固定価格買取制度
調達価格等算定委員会第1回で出された資料。2012年3月6日付け。
関連
→ 蹴茶: 孫社長より恐ろしい人達、本当に恐いのはこっち? [2012.4.26]
→ 蹴茶: 太陽光42円 全量買い取り案 家庭の負担額はどうなるのか [4.25]
→ 蹴茶: 孫正義氏 1キロワット時40円で20年間固定買い取りを検証する [3.22]
→ 蹴茶: 大飯原発再稼働そっちのけ、FIT正式決定に喜ぶ孫社長 [2012.6.19]
→ 蹴茶: ドイツの一般家庭における消費電力量 [2012.11.17]
→ 蹴茶: [FIT] 買取価格を切り下げる困難さ [5.17]
急増する負担を抑えるべくドイツ政府が出したFIT改訂案を上院が差し止め。
環境大臣が解任される騒動に。背景には力をつけた再エネ事業者のロビー活動があります。
→ 経産省:自然エネルギーのコストを全部電力消費者に転嫁して良い
→ 経産省:導入量の制限(cap制)は考えていない