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2013
Samsung端末の輸入差し止め 拒否権発動はなし

Samsung端末の輸入差し止め 拒否権発動はなし

ITC(米国際貿易委員会)に特許侵害と判断され、輸入差し止め処置となったiPhone。しかし施行直前に、オバマ大統領が拒否権発動というまさかの展開に。

 → 米ITCのiPhone輸入さし止め命令、オバマ政権の拒否権発動に韓国政府が懸念表明

同様のSamsung端末の輸入差し止めに対しては静観の構え。

 → 韓国政府 サムスン旧型製品の米国輸入禁止に「遺憾」
 → 米国へのサムスン端末輸入差し止め命令、オバマ政権による拒否権発動はなし


こうなると

「え、なにそれずるい」

と思うわけですが、ITC判決への拒否権発動自体、非常に稀なことで実に26年ぶりなんだそうです。何がオバマ政権を動かしたのか。

米通商代表部がITCに送った書簡では “FRAND特許” を大きな理由に挙げています。

Appleが侵害したとされているSamsungの通信関連特許(特許番号:7,706,384)は関連製品に必須で標準的ないわゆる「FRAND」特許であり、こうした特許の扱いは慎重に行う必要があるとしている。

Appleはこの決定に対し「米政府がこの重要な訴訟でイノベーションを守ったことを称賛する。Samsungは特許制度を乱用した」という声明を発表した。
 → ITmedia


FRAND特許というのは、通信技術など根幹をなす回避不可能な特許に関しては高額のライセンスをふっかけてはならず、妥当な金額でライセンスせよというものです。


実はEUにおいても Samsungの FRAND特許が問題になっています。

EUではSamsungに有利な判定が出るどころか、Samsungが独禁法で訴えられる瀬戸際に追い込まれています。現在は訴訟そのものを取り下げる方向で話し合いが進んでいます。

新たな報道によると、サムスンは欧州連合(EU)の独占禁止法当局との問題で、最後まで戦い抜くことに賭けるよりも、白旗を掲げる方向に傾いているという。

 欧州委員会は、サムスンがEU各地でAppleを相手取って起こした訴訟で標準必須特許を利用している件で、サムスンを調査してきた。サムスンは3G/UMTS規格に関する必須特許を保有している。同社はこれらの特許を得るため、当該特許の使用許可を求めるすべての企業に対し、公平かつ合理的な条件でライセンス供与することに同意するよう義務付けられた。
 → CNET Japan



一方、AppleがSamsungを訴えた特許は必須特許ではなく、回避可能であるとされ、問題視されていません。

サムスンが保有するいわゆる「必須標準特許」の侵害が争われていたのに対し、今回のITCによる判断ではアップル製品のハードウェアやソフトウェアに関するデザインや機能などが争点になっており、そうした違いからオバマ政権がふたたび拒否権を発動する可能性について懐疑的な見方も出ているという。
 → WirelessWire News



FRAND特許は本来重要な特許なのですが、強力すぎて武器にならないという皮肉な特長をもっています。この辺、もやもやするところですが、専門家である栗原潔氏のエントリーもおすすめです。
 → なぜサムスンやモトローラの特許はアップルに対する武器として使いにくいのか: FRAND条項とは?



 → 蹴茶: AppleはSamsungを意匠権で訴え、Samsungは特許権で訴えた [8.25]
 → 蹴茶: FRAND特許(条項)とは [2012.9.3]
 → 蹴茶: Samsung「当社の特許技術はアップル端末に不可欠」 [11.26]
 → 蹴茶: EU、Samsungを独占禁止法違反で提訴へ [12.22]


関連

 → 外務省: WTO紛争解決制度 日本の当事国案件
 → アップル対サムスン:世界各地の特許戦争の現状をざっくり整理!~その2~ 諏訪公一|コラム|骨董通り法律事務所 For the Arts