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[FIT] 委員会、買取価格は売り手の提案をほぼ丸呑み

(太陽光発電限定で書いてます)

FIT決定の経緯を議事録や資料を読んでみました。
FIT価格(案)を決めたのは国会議員ではなく、調達価格等算定委員会です。
 → 調達価格等算定委員会 / コスト等検証委員会

議事録を読むとわかりますが、FIT価格は売り手の提案をほぼ丸呑みしています。
そうなった要因を大きく3つあると思われます。


要因1.事業者を黒字にする義務がある


これが単独でダメというわけではないです。電気料金も利益上乗せですし。
問題は後述する要因 2 と 3 とのコンボで、丸呑みの方向へ話が転がっていきます。

議事録によると、このような解説がなされています。

利潤を考慮
出典: 第2回 議事録 P3 【参考条文

“利潤を勘案” がなぜか “義務” に。配慮はあっても義務は無いだろと思ったりしますが。
それはさておき、最大の課題はこれです。

 “適正なコスト” の設定

“適正な利潤”とありますが、適正なコストがわからなければ“適正”になりようがありません。

ここで問題が出てきます


要因2.委員会メンバーに現場の人間がいない


委員会メンバーに現場の人間が1人もいません。

ドイツの電力行政に精通した和田氏など専門家集団ではあるのですが、現場でどのくらいのコストがかかるのか?という話に精通した “コストのプロ” がいません。

京都大学 植田 和弘教授環境経済学が専門、著書「廃棄物制御の財政理論」など
NACS理事 辰巳 菊子氏サステナビリティに配慮した消費生活アドバイザー
一橋大学 山内 弘隆教授規制産業の分析が専門、著書「交通経済学」「航空運賃の攻防」など
RITE理事 山地 憲治氏エネルギー技術や政策の評価、著書「エネルギー学の視点」など
日本環境学会会長 和田 武氏 著書「飛躍するドイツの再生可能エネルギー」など


太陽光発電協会やソフトバンクへの聞き取り調査でも質問はごく一般的なものに留まります。

「地代が上がるということがあるのですか?」
「規模が大きくなると安くなるように思うのですが」
 出典:第3回 議事録

売り手に教えてもらっている状態で、“適正なコスト”どころではありません。
これは委員の方自身も認識されています。

○山路委員
「例えば電気料金の料金認可するときには、非常に丁寧に原価の査定をするわけですが、なかなか今回買取対象となるものは、そこまでのチェックができないと思うのです。」
 出典: 第2回 議事録 P17


特に日本では海外製と国産のコスト差、内外価格差の収斂ペースは重要なポイントですが、議事録を見る限りほとんど掘り下げることなく終わっています。

次世代PHSを剛腕で中国方式に切り替えた孫社長が、割高な国産を使うとも思えず、どのような機材コストを考えているのか聞いて欲しかったところです。
 → 次世代PHSで中国方式採用へ=設備投資抑制など狙う-ソフトバンク - WSJ

高くもなく低くもない
植田委員長は自信満々

ヒアリングの際にゲストアドバイザーを呼ぶなり、対応できなかったものでしょうか。

また、コストの資料にも問題があります。



要因3.市場変化にマッチしていない資料


委員会が頼りにする「コスト等検証委員会」の資料ですがこれも問題です。

そもそも、資料を作った時点で多くの指摘がなされています

 ・ ミスジャッジの可能性がある、注釈付けるべし
 ・ 参考例は実証的要素が強くコストが高めに出ている
 ・ 海外とは低い方で見ても10万円ぐらいの差がある
 ・ どうも国内独自仕様で高くついている可能性がある

コスト委員会 35~55万円
  出典: 第3回 コスト等検証委員会 資料2-2

これは仕方のない話で、火力発電のような“枯れた”業界と違って太陽電池市場は激動期。

垂直統合から水平分離へ、液晶テレビと同じことが起きており、加えて欧州のFIT切り下げ。価格暴落は先日お伝えした通りで、“今”を反映した役所の資料を作るのは至難の業です。

言ってみれば、去年のテレビ価格を元に「来年テレビいくらで買う?」と議論しているわけです。去年のチラシを持った客など、店員にとってみればカモです。



結果.売り手の提案を丸呑み

“生のコスト”がわからない委員会に、今を反映していない資料。そして黒字の“義務”。
結果的に、こんな流れで価格が決まってしまいます。

委員会
「コストはいくらですか?」

太陽光発電協会
「資料には建設費の最安値が 35万円とありますが、少し安くして 32.5万円
 買い取り価格は(税抜)42円を業界としては要望したい」

 ~ 質疑応答タイム  ~

ソフトバンク
「42円、45円といいたいですが、最低でも(税抜)40円20年間をお願いしたい」

 ~ 質疑応答タイム  ~

植田委員長
「よろしいですか、はい、ありがとうございました。
 委員の皆さん、少し時間的な制約もありますのでご協力よろしくお願いします。」

出典: 第3回 議事録より

 ↓ ↓ ↓

FIT委員長案
出典: 第7回資料


< 委員長案 >

メガソーラー
・ 建設コスト 32.5万円
・ 買取費用 (税抜)

 40円 20年間 全量買取

住宅 or 小規模
・ 建設コスト 46.6万円
・ 買取費用(税抜)

 42円 10年間 余剰買取
 ( 別途補助金が付き、実質 48円)


売り手の提案をほぼ丸呑みです。
冗談みたいな話ですが、実話です。

突っ込んだコストの話ができず、“黒字にする義務” がある以上、丸呑みしかありません。

委員長が質疑応答をせかし、質問時間がしっかり取れてないのも意味不明です。そうは思いたくありませんが「もう決まってんだよ」「茶番だよ」と言われても仕方のない話です。



心配1.上限がない


「最初なんだから、ガッツリ儲けたっていいじゃないか」

そういう意見もあると思います。ところがこの制度、上限が無い

コスト算定が怪しまれるのに、歯止めをかける安全装置がありません。

○新原部長
「この法律上は、幾らにしたらどの程度導入見込み量があるかということに基づいて、例えば

バブルになりそうだから切り下げるとか、そういうことは一応想定していない

という状態になっております。」
 → 第2回 議事録 5ページ


ずっこけそうになりますが、確かに制限については明記されていません。

3月15日 資料2
  出典: 第2回 資料2

「負担が使用者に対して過重なものとならないこと」という規定が軽視されてる気がしますが、他の委員も議論の流れ的に「決めなくていいか」でまとまってしまいます。

一番、消費者側に立った発言をしている委員は消費生活アドバイザーの辰巳さんなのですが、知識が全くと言っていいほど無いので、心配するだけで議論になりません。

 1.事業者を黒字にする義務がある
 2.上限は設定しない
 3.負担が使用者に対して過重なものとならないこと

市場が激変する中、この3条件を成立させるのは非常に難しい話です。
しかも「3年間は特に利潤に配慮せよ」というご丁寧な縛りまであります。



心配2.バブルの前例がある

懸念されるのはバブルです。
スペインでは2007年に買取価格が引き上げられたのを機に、太陽光発電が急増。慌てて政府が予定外のFIT抑制に動き、2009年の新規導入量は壊滅的な打撃を受けます。また失業者と借金まみれの起業家を大量に生み出しました。

詳細
 → 蹴茶: [FIT] スペイン 太陽光発電バブルの崩壊 [2012.5.5]

スペイン ショック
出典: CNE - Comisi醇pn Nacional de Energ醇^a - Informaci醇pn Estad醇^stica sobre las Ventas de Energ醇^a del R醇Pgimen Especial



上限の設定、もしくはFITを欧州の2倍程度に


バブルに懲りた欧州各国が設けているのが上限です。委員会が昨年度比 1.4倍と予測するのであれば、たとえば1.6倍を超えた時点で一旦停止し、価格を再検討するよう設定できないでしょうか。

見直し処置
FIT改訂
出典: 第7回 資料3

もっと言えば、初年度は無理をせずコスト情報の収集につとめては。
メガソーラーであれば買取価格 30円前後(欧州の2倍強)で開始し、FIT適応事業者にコスト報告義務を課します(これは既に決定済みです。領収書出せってことですね)。

最新のコスト事例が集まりますので、それを集計して公開(可能であればぜひ)。
その上で改めてFIT価格を調整すればいいと思います。

ドイツやフランスなどは3ヶ月でFIT価格を改定しています。規定に反するなら変動枠をはめてもいいと思います。バブルを潰すのは大変ですが、FITを後から上げるのは比較的容易です。スロースタートというのは1つの手だと思います。

ただ、初年度の導入量が少ないとバッシングされるのは目に見えているため、盛大に導入が進む方に政治家は舵を切りたがると思いますが。

「採算性が乏しければ継続性に欠く」とよく言われますが、欧州の事例を見る限り、高すぎるFITもまた破綻を招くことになります。